注意）以下の記事には、生死に関わる微妙な内容が含まれています。特に気の弱い方や神経質な方、霊感の強い方は、できるだけ読まないようお願いいたします。
はじめに
みなさんは「障（さわ）り」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
娘がよく観ている人気アニメ『呪術廻戦』の中に出てくる“呪い”という概念に、少し近い意味を持っています。
アニメに登場する呪いの源は恐ろしい怪物たちですが、障りのもとは神や人であり、必ずしも怪物的な存在ではありません。
ただし、その想念が深く絡み合えば、怪物のような形をとっても不思議ではありません。
障りとは、亡くなった人々や邪神などが、強い思いをさまざまな形で訴えてくる現象のことをいいます。
古戦場や古墳、神域など、日本各地にはこの障りに関わる土地が数多く存在します。
ちなみに、アニメに登場する「領域展開」のような技はありませんが、僧侶にとって結界は不可欠なものです。
結界とは自分の力で作るものではなく、信奉する神を勧請し、守護していただくものです。
この障りについては上記の記事で詳しくお話ししています。
今回は、わたしが霊感を得るきっかけとなった出来事をお伝えします。
それは、寺院に隣接する村の供養塔での体験でした。
寺院に隣接した村
出家から三か月ほど経った頃、わたしは兄弟子に同行して法事（ほうごと）に出るようになりました。いわば実地修行の始まりです。
寺院の建つ古戦場は広範に及び、周辺の村々にも多くの戦死者が眠っています。
今回訪れた隣村もその一つで、多くの武将や民が命を落とした場所でした。
村の中心には広場があり、かつては村民の交流の場として運動会が開かれていました。
今ではその伝統が続いているかどうか定かではありませんが、当時はまだ人々の結びつきが残っていた頃でした。
供養塔で見えた風景
広場の隅には、「南無妙法蓮華経」とカギ字で刻まれた供養塔が建っています。
寺院がこの村の行事に関わるようになったのは、わたしが出家する何十年も前のことでした。
運動会のたびにケガ人が出るため、困り果てた村の役員が寺院に相談に訪れたのが始まりです。
その際、寺院が供養塔を建立し、法要を営んだところ、その年は不思議とケガ人が出なかったといいます。
それ以来、毎年の開催前には、寺院から僧侶が派遣され読経を行うことになりました。
その日も兄弟子が導師を務め、わたしは脇で経を唱えていました。
目に見えない世界が見えるなど思いもよらず、ただ一心にお経を挙げていたとき——
突然、意識の中に、これまで見たことのない情景が広がったのです。
目に見えない世界の光景
読経が始まって間もなく、激しい戦の光景が浮かび上がりました。
血煙の中で剣を振るう武将たち。その中に、ひときわ目を引く人物がいました。
赤く雅な甲冑をまとい、ざんばら髪をなびかせながら戦う高貴な武士。
やがて彼は、わたしの読経に気づくと、剣を引き、ひざまずきました。
その姿には、僧を敬う礼節と、武士としての誇りが感じられました。
その瞬間、供養塔の前に白い二つの影が現れました。
次第に輪郭がはっきりしてくると、それは——白装束をまとった若い女性と、おかっぱ頭の子どもでした。
二人は、先の武士をじっと見つめていました。
おそらく、彼の妻と子どもだったのでしょう。
わたしは経を唱えながら、静かに念じました。
「奥様とお子さんが、供養塔でお待ちです。どうか戦いをやめ、ここにお入りください。」
その刹那、彼の中にあった妻子への愛情、主君への忠義、家族や部下を失った無念——
そのすべてが一気に押し寄せてきました。
その感情の奔流に胸を突かれ、わたしは思わず涙をこぼしていました。
目に見えなかった世界の発動
ちょうどそのとき、兄弟子の読経が終わりました。
すると、山あいの空が急に曇り、雨が降り出したのです。
兄弟子は雨を見上げながら、静かに言いました。
「幽霊さんたちも、泣いているようですね。」
普段は寡黙な兄弟子ですが、その言葉から、彼も同じ光景を見ていたことがわかりました。
泣いている姿を見られるのは気恥ずかしかったものの、雨のおかげでごまかせたのは幸いでした。
この日、わたしは生まれて初めて、他人の悲しみに心の底から涙を流しました。
理屈で割り切ろうとする自分の中に、慈悲の感情が芽生えた瞬間でした。
それ以来、不思議なほどに、目に見えない世界が自然と見えるようになったのです。
おわりに
戦国のような極限の時代を生き、戦いの中で命を落とした人々の心は、深く傷つき歪んでいます。
その歪みをほどき、静かに眠りへ導くためにこそ、供養塔は建てられました。
後の世に生きる人々が祈りを捧げることで、彼らのこころは少しずつ棘が取れ、癒やされていくのです。
迷う霊は、広い意味でいえば人類全体の損失です。
人は誰しも、聖者へと変わる可能性を秘めています。
人として生まれることは、その使命を目覚めさせ、育てていくための道程にほかなりません。
これは戦国の武士であっても同じことです。
この供養塔での体験は、わたしに「他者のこころを解く」ということを教えてくれました。
不幸に見舞われた人々のこころをほぐしていくのも、また人のこころなのです。
今日の一言
食事前に唱える言葉です。食法肝文（じきほうかんもん）といいます。
一滴の水も仏恩（ぶつおん）にあらざることなく
一粒（いちりゅう）の米ぞくも万民の労苦による
我、いま清き食（じき）を恵まるることを得たり
願わくば仏子（ぶっし）たるの使命を自覚し
以て四恩（しおん）に報じたてまつらん
パンを食べる方も、キリスト教徒の方も、どうぞ試してみてください。
毎日の「いただきます」に、この言葉を添えるだけで、きっと食のありがたみが変わりますよ。
