目に見えない世界について

June 12, 2023November 11, 2025

はじめに

日本の多くの宗派は、亡くなった後の世界、あるいは目に見えない領域の存在について、明確に言及することを避けています。
その理由は、信仰を超えた“現実主義”の時代背景や、社会的な誤解を避けるためでもあるでしょう。

一方で、わたしのような個人ブログで語ることと、宗や寺院が公的に発信することとは、そもそも背負うものが異なります。
「目に見えない世界」を公言することは、一般には受け入れられにくく、時に反社会的な印象を与えかねないからです。

けれども、これまでの人生の中で、目に見えない世界の最前線に身を置いているはずの僧侶たちから、その実感をともなう言葉をほとんど聞いたことがないのは、正直に言って残念でした。
果たして僧侶は、何に向かって祈り、誰に供養しているのか。そんな疑問が心をよぎることもありました。

もちろん、目に見えない世界について語らない僧侶の中にも、人格的に優れ、深い徳を備えた方は多くいらっしゃいます。
そしてお釈迦さまご自身も、「見えぬものを思索するより、見えるこの世をより良く生きることが大切だ」と説かれています。

それでもなお、わたしは思います。
この世をより良く生きるためにこそ、この世を超えた世界を少しでも知っておくべきだ。
僧侶から外へ出た身ですが、それを伝えるのも、
かつて僧侶だったわたしの大切な役割のひとつではないかと。

その前提に立って、以下を読み進めていただければ幸いです。

目に見えない世界のはじまり

前回の記事を読まれた方の中には、すでにお気づきの方もいるかもしれません。
わたしは出家した当初、まったくといっていいほど「目に見えないもの」を感じることができませんでした。
霊感など皆無で、むしろ理屈で物事を捉えがちな性格でした。今でもその傾向は記事の端々ににじみ出ているかもしれません。

一方、前回の「武士と添い寝を楽しんだ」同門の僧侶は、寺院の末寺の生まれで、入門当初から僧侶としての素地を備えていました。
わたしのいた寺院では、**目に見えない世界を感知することは、十分条件ではなくとも必要条件**とされていたのです。

なぜなら、原因のわからない苦しみを抱える人々に寄り添うとき、
「目に見えない世界」から得られる情報が、彼らの行く先を照らす一助となる可能性があるからです。
お釈迦さまの根本思想を伝えるものを【本法】とするなら、このような働きを【余法】と呼びます。
この余法を体得できなければ、僧侶として“半人前”と見なされました。

当初、この修行には大いに苦しみました。
慣れぬ寺の生活、焦燥、眠れぬ夜。何度も「もうやめたい」と思いました。
それでも、水行・読経・止念観¹を繰り返し、心身を整える日々を続けました。

やがて半年を過ぎた頃、世界の輪郭が少しずつ変わり始めました。
見えない世界が、静かにその姿を現しはじめたのです。
ようやく、僧侶としての入口に立てた瞬間でした。